写真(神仏霊場巡拝の道公式ガイドブック) |
紀伊山地の霊場と参詣道
松長有慶 金剛峰寺座主平成十六年七月、高野山、吉野、熊野の三霊場とそれらを結ぶ参詣道が、ユネスコの世界遺産に登録された。
従来の世界遺産に対する一般的な考えとは異なり、宗教的な建造物とともに、神仏の霊場としての歴史を持つ三つの霊場を結ぶ参詣道が指定されている点が特異である。それらの宗教施設を巡って祈り続けてきた人たちの過去の信仰の形が、現代社会にも意義のあることと評価されたと見てよいであろう。
高野山、吉野、熊野、それぞれの地名は、「野」で結ばれている。”野”とは、単なる原野という意味だけではない。それは日本の古代社会において、死者の霊の集合する場所を意味した。
現世と一線を画する聖地に対する信仰は、今昔を問わず、人間の意識の根柢において、異界に対する恐怖とともに、反面、大自然のなかに身も心も包み込まれるような、安らぎの心情を呼び起こしてきた。
高度に発達した科学技術文明の功罪両面を享受している現代人にとって、人間存在の原初に触れることの可能な場所として、紀伊山地の霊場が現実に存在することが貴重なのである。熊野は自然信仰に立脚する古代神道、高野山は原初的な密呪の世界を、大乗仏教の思想によって純化し、理論化した真言密教、吉野は在家の修験者を含む修験道、それぞれの拠点となり、現代にまでその信仰を人々が持ち続けている。
そしてそれらの拠点同士が、平安時代から千数百年の歴史の中で、互いに信仰をともにして結ばれた参詣道を共有してきたことは、特筆すべきことであろう。
神と仏の霊場を少しの違和感もなく巡礼し、現世と来世の幸運を祈願する、それが伝統的な日本人の信仰のひとつの形であった。
今、近畿地方に百有余の神仏の霊場が指定され、これらの霊場を巡る巡礼者が新たに形を整えようとしている。病める現代人にとっての癒しの場となるに違いない。
(引用:神仏霊場巡拝の道公式ガイドブック)
高野山、吉野、熊野 病める現代人にとっての癒しの場
Reviewed by 管理人
on
3:01:00
Rating:
0 件のコメント: