高校学力考査問題  未来の事象が過去の事象に影響を及ぼすことは可能か

英米哲学界では有名なマイケル・ダメットの「酋長の踊り」という謎解きがある。ある部族で青年が成人するにはライオン狩りでその力を証明せねばならないので、狩り場に二日かけて行き、狩りの後二日かけてもどる。酋長は彼らの成功を祈ってその間踊り続けるが、問題は、狩りが終わった日から青年たちが帰路にある間も踊り続けるというのである。そのとき狩はすでに終わって事の成否は定まっているのに、その幸運を祈るとはどうしてだ、というのがダメットの問いである。われわれ現代人もこの酋長を笑えないだろ。列車や飛行機の事故の報を聞いた後でそれに乗り合わせた家族の無事を祈り、入学試験の合否はすでに決定済みであることを承知しつつ、なお一縷の望みにかけて祈りはしないだろうか。(時は流れず) 

 なかなか手ごわいパラドックスですが、ダメットはこれを「逆向き因果」ないしは「遡及的祈り」と呼んでいます。逆向き因果と呼ばれるのは、酋長の踊りが現在の行為を原因として過去を変え、望ましい結果をもたらそうとすることだからです。またダメットが伝えるところによれば、正統的ユダヤ教神学では「遡及的祈り」を行うことは禁じられているそうです。その理由は「過去を変えることは論理的に不可能な事である。したがって、遡及的な祈りを口にすることは、神に論理的不可能事を求めて、神を愚弄する事である」(M・ダメット『真理という謎』)いうところにあります。[A]、大森さんが述べていますように、どこかの部族の酋長のみならず、われわれもまた、すでに起こった事故に対して家族の無事を祈り、すでに提出した答案に対して合格を祈ることを当然のごとくやってます。[B]、そのときわれわれは逆向き因果を引き起こし、遡及的祈りで神を冒涜するという無意味な行為をしているのでしょうか。事故の場合は無意味と言うにはあまりにも深刻な祈りですし、受験生が試験の終わった後で合格を祈るのはごく自然な行為に見えます。問題は、いまだ誰にも知られていない過去が果たして決定しているのかどうか、というところにあります。それに対するダメットの回答は少々複雑なものですので、・・・・ 

 引用:PDF2021年度(高校)学力考査問題 国語
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