集団主義的な日本人は、自分の意見を押し殺してでも集団に同調しようとする

アッシュの実験
写真(wiki/Asch_conformity_experiments

1.タイトル: 「ウチ」への同調 日本人もアメリカ人と変わらず
2.発表概要:
これまで日本人論では、「集団主義的な日本人は、集団の和を重んじるので、自分を犠牲にしてでも集団に同調しようとする」と言われてきた。ところが、今回、同調についての心理学実験をおこなった結果、自分が所属する集団(ウチ)に同調する割合は、日本人の場合も、「世界で最も個人主義的」と言われてきたアメリカ人の場合と変わらないことが明らかになった。
3.発表内容:
日本人論では、「個人主義的な欧米人と比べて、日本人は集団主義的だ」と言われてきた。「集団主義的な日本人」は、「集団の和」を何よりも大切にするので、集団内の対立を避けるために、同じ集団に属する他のメンバーと意見が食い違ったときには、自分の意見を押し殺してでも集団に同調しようとする、と考えられてきた。
 
心理学には、この同調の程度を調べる有名な実験がある。アメリカの心理学者アッシュ(S. E. Asch)がおこなった実験である。この実験には、7名前後の人たちが被験者として一緒に参加し、線分の長さ判断という非常に簡単な課題をおこなう。この人たちのうち、本当の被験者は1人だけで、あとはみなサクラ(実験者の協力者)である。何回かの長さ判断で、サクラは、全員が一致して間違った答を言う。その答を聞いたあとで、ほんとうの被験者がサクラに同調して間違った答を言う割合を記録し、同調の程度を調べる。

アメリカ人を対象とした実験は繰り返しおこなわれてきたが、同調の割合は、平均して25%ほどであった。一方、日本人を対象とした実験も幾つかおこなわれており、同調の割合は、平均して23%ほどであった。これは、「日本人はアメリカ人より集団主義的だ」という日本人論の主張を真っ向から否定する結果である。この事実は、高野陽太郎と纓坂英子が初めて指摘した(『心理学研究』1997; Asian Journal of Social Psychology, 1999, アジア社会心理学会 Misumi Award 受賞論文)。
 
しかし、高野・纓坂のこの研究には、国内外から次のような批判が投げかけられた。日本人論は、「日本人は『ウチ』の人たちには同調するが、『ヨソ』の人たちには同調しない」と主張している。日本でおこなわれた同調実験の被験者は、寄せ集めの大学生であり、「ウチ」と呼べるような同じ所属集団のメンバーではなかった。したがって、同調の程度が高くならなかったことは不思議ではなく、日本人論の主張と矛盾するわけではない、というのである。
 
そこで、今回は、同じ集団に属する人たちを対象とした実験をおこない、「ウチ」のメンバーに対する同調がじっさいに高くなるのかどうかを調べた。本当の被験者とサクラは、いずれも、大学の同じ文系サークル(例: ブラスバンド)に所属する学生であった。かれらは平均して28ヶ月間、そのサークルに所属していたので、「ウチ」のメンバーであったと考えることができる。こうした被験者の集団40組を対象にして、アッシュの実験と同じ手続きで実験をおこなった。
 
実験結果を集計すると、同調の割合は25%となった。この割合は、アメリカ人を対象とした実験の場合(25%)とも、日本人の寄せ集めの大学生を対象とした実験の場合(23%)とも、変わらない値である。
 
したがって、この実験から、「個人主義的なアメリカ人とはちがい、集団主義的な日本人は、自分の意見を押し殺してでも集団に同調しようとする」という日本人論の言説は、実証的な証拠とは矛盾していることが明確になったと言える。

(引用:東京大学

集団主義的な日本人は、自分の意見を押し殺してでも集団に同調しようとする 集団主義的な日本人は、自分の意見を押し殺してでも集団に同調しようとする Reviewed by 管理人 on 20:21:00 Rating: 5

0 件のコメント: