「労働」の５つの側面、ドラッカー（Peter Ferdinand Drucker）

究極のドラッガー

「労働」は労働者が行う活動です。それは人間による活動であり、人間性の重要な一部でもあります。ドラッガーは、「労働」に理論はなく、力学（dynamics）と側面（dimensions）があるだけだと言います。そして、少なくとも５つの側面があるとして次のように説明します。

第一の側面は生理的側面です。機会が得意とするのは単純作業の繰り返しです。あらかじめ決められた順序で一定のスピードと周期を保つのが効率的です。一方、人間は調整力に優れ、気付きを行動に結び付けることができます。人間は人間のすべて、つまり筋肉、五感、心など総合的に発揮する仕事に向いています。また、人間はいくつもの業務を組み合わせて行うのが適していて、スピードや周期を頻繁に変えられる状況が最も働きやすい。同じスピード、同じ周期、集中力持続時間だけを押し付けられると、疲労、反発、怒り、憤りを感じます。「仕事」は均一に設計しなければなりませんが、「労働」は多様性の度合いに配慮して組み立てなければなりません。労働には、スピード、周期、持続時間など自由に変えられるゆとりが必要なのです。

第二の側面は心理的な側面です。仕事は人間にとって重荷でもありますが必要なものでもあります。失業した人は心理的に深刻な不安に陥りますが、それは経済的に困窮するからというよりも、自尊心が傷つくからだとドラッガーは指摘します。仕事は自己実現の場であると同時に、人は仕事を通して自分を定義し、自分がどれだけ価値があるかを測るのです。未来学者は働かなくてもよい社会を予想しますが、そうなれば多くの人は人格的に深刻な危機に陥るだろうとドラッガーは言います。仕事を通して人の心理的欲求をいかに満たしていくかが課題なのです。

第三の側面は社会的側面です。仕事には社会や地域とのつながりを築くという側面があります。仕事は社会における位置づけまで大きく決めてしまいます。「医者です」「配管工です」といった言葉は、社会における位置づけや地域における役割を表しています。さらに重要な点として、集団に属したいという太古からの人類の欲求を満たす手段が仕事であるとドラッガーは言います。たいていの人は仕事を通して家族以外の社会とのつながりを作り、そのつながりは時として家族より重要なことがあります。

第四の側面は経済的な側面です。仕事が生計の手段であることは説明の余地がないでしょう。

第五の側面は権力の側面です。組織の中で働いていれば力関係が必ず存在します。組織の中には必ず権力を持った者が存在します。組織のメンバーは別の誰かの指示に従わなければなりません。組織においては、仕事を設計し、割り当て、決まった順序に従って、スケジュール通りに進めなければなりません。また、人は昇格させられたりさせられなかったりします。つまり、権力がだれかによって行使されなければならないのです。「組織は人間を疎外する」という言葉は正しいとドラッガーは言います。権力は仕事に欠かせない要素です。それは、生産手段の所有とも民主主義とも関係ない、組織として切り離せない事実なのです。

以上がドッラガーの説明する「労働」の５つの側面の概要です。では、これら５つの側面がどうマネージメントしていけばいいのでしょうか。マルクスほか経済学者は、経済的側面を最重要視していました。ホーソ工場での生産性の研究で有名な人間関係論を展開したエルトン・メイヨーは心理学・社会的側面を最重要視していました。しかし、ドラッガーはこれら５つまとめてマネージメントする必要があると言います。

まとめてマネージメントするといっても、すべての側面が同じ方向をもっているわけではありません。ある側面の欲求が他のものとはまったく異なることもあります。また、５段階欲求説のマズローが示したように、欲求は絶対的なものではありません。さらに言えば、欲求というものは満たされる過程で変容していくものです。経済的側面が満たされるとそれへの欲求は低下して次の違った欲求が出てきます。

(参照:究極のドラッカー (角川oneテーマ21))

ホーソン実験（ホーソンじっけん、英: Hawthorne experiments）
当初は物理的な作業条件と従業員の作業能率の関係を分析する目的で、社内的に照明実験が行われ、次いでリレー組み立て実験が開始された。この時期からハーバード大学のエルトン・メイヨー、フリッツ・レスリスバーガーらが研究に加わり、さらに面接調査、バンク配線作業実験という一連の研究が行われた。この研究の結果、「労働者の作業能率は、客観的な職場環境よりも職場における個人の人間関係や目標意識に左右されるのではないか」という仮説が導き出された。また、集団内には「能率の論理」に規定される非公式組織（インフォーマル・グループ）が存在すること、非公式組織における仲間意識や集団内の規範が作業能率に影響を与えることをメイヨーは突き止め、人間関係論を展開した。20世紀初頭に科学的管理法がフレデリック・テイラーによって提唱されて以来経営管理論の主流だったが、この実験以来、人間関係論へと移行した。（wiki/ホーソン実験 ）


 ピーター・ファーディナンド・ドラッカー（Peter Ferdinand Drucker、ドイツ語名：ペーター・フェルディナント・ドルッカー 、1909年11月19日 - 2005年11月11日）は、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系オーストリア人[1]経営学者。「現代経営学」あるいは「マネジメント」(management) の発明者。

他人からは未来学者（フューチャリスト）と呼ばれたこともあった[2]が、自分では「社会生態学者」を名乗った。父・アドルフ・ドルッカー（ウィーン大学教授）と母・ボンディの間の子で、義理の叔父に公法学者・国際法学者のハンス・ケルゼン（母方の叔母・マルガレーテ・ボンディの夫）がいる。ドラッカーの自著によれば、父親はフリーメイソンのグランド・マスターだった[3]。（wiki/ピーター・ドラッカ）ー