世界秩序 フィロフェイの書簡 ローマ法王宛の公開書簡

2)内容紹介 
 a. 発端 

中心舞台は90年代のアメリカ。人工衛星に単身で残ったロシア人の生命工学者が、「宇宙修道士フィロフェイ」と自称して、米紙『トリビューン』に送ったローマ法王宛の公開書簡が、事件の発端となる。

フィロフェイによれば、発生直後の胎児は自らの将来を予測して生誕の適否を判断する能力を備えている。生まれることを望まない胎児(カッサンドラ胎児)は、妊娠初期の数週間にわたり、母親の額の小さなシミ(カッサンドラの刻印)としてその意志を表現する。通常これは無視されているが、生命工学の副産物として胎児の思考を知る能力を得たこの学者は、誕生拒否胎児が年々増加していることを発見し、それを人類の蓄積してきた悪が飽和に達しようとしていることへの警告と受け取る。彼によれば誕生拒否児は将来の犯罪者候補であるため、この警告の無視は、さらなる悪の蓄積につながる。

こうした判断に立って、彼は衛星軌道上から地上に実験電波を送り、カッサンドラの刻印が、母親の額で明滅し脈動する明白な印となる措置をとった。彼は人類の精神的な価値観を代表するローマ法王に向かって、胎児の警告を受け止め、「進化を正しい方向に向ける」こと、そしてそれに不可欠な堕胎の許可を与えることを要請している。

b. 展開-1

物語の第2幕は、この科学者の行為がアメリカを始め世界の世論に、そして一人の未来学者の運命に与えた影響を描いている。

カッサンドラの刻印を妊婦たちの額に見た大衆は、宇宙修道士の行為を人権の侵犯として、また子孫を生み増やせという神の教えの冒涜として、さらには悪しき優生学として、世界各地で抗議行動を開始する。ただ一人フィロフェイのメッセージを真剣に受けとめるのは、アメリカの未来学者ロバート・ボークである。生物が人知を越えたレベルで世界秩序を体感する能力を持つと信じるボークは、胎児の予知能力も自然な現象だと考える。彼によればカッサンドラの刻印は、人類の自己意識がフィロフェイの技術を介して開示して見せた現実であり、人類の新しい自己認識の契機となるべきものである。

ボークは、たまたま米大統領選挙に出馬していた知人のオリバー・オルドック(ハンガリー語の「悪魔」の意味であることがエピソードで紹介される)の裏切りによって、一挙に複雑な立場に追い込まれる。選挙対策のためにこの問題に関するボークのアドヴァイスを乞うたオルドックは、ボーク的解釈を立会演説の中に盛り込もうとする。しかし選挙民の激しい批判に圧倒された彼は、その場で立場を翻し、悪しき優生学の手先としてボークの名前を挙げることによって、彼に批判の矛先を向けさせてしまう。

引用:現代ロシア文学 REFERENCE GUIDE-ON-LINE 
「カッサンドラの刻印(20世紀末の邪教より)」
Tavro Kassandry(Iz eresei XX veka)
アイトマートフ、チンギス Aitmatov, Chingiz  
https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/literature/aitmatov.html


 
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